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「どうも御苦労さま、暑いところを」
「あのう、笹井へ往診がございますが」
「小倉組の連中が来たちふぢやないかね。ほんとうかね」
そこには、房一の紅黒い、怒張した顔があつた。いつのまにやつて来たのだらう、徳次はぎゆつと片手で押へつけられたまゝだつた。そして、房一の怒声を聞いた。
「どうもおれは、身近かな者だと平気で診られないんだね」
「どうしなさつた」
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。
「ふうん。気楽な身分だね」
「あの訴訟はどうなつたのかね」
「玄関の手入れをどうしようかと云ふのですよ」
その粗暴な外見とは反対に、徳次はさういふ血生臭ちなまぐさいことが嫌ひだつた。そして、人並外れた敏感さを示すのであつた。今もそれで、彼はいかにも心外げな様子を、その無意識な仕草の中に現していた。
だが、急に機嫌をとり直した。そして、徳次が彼の口から聞くことでどんな表情になるかを期待しながら、ゆつくり相手の顔を見て云つた。
「ねえ。――はやく。――患者ですわ」